皆さん、無機有機化学、好きですか?僕はかなり嫌いです。何より覚えられん!!!!全然文脈が無い!!!理系なのに歴史のが覚えやすい!!!!
そんな方々の為に戦争と無機化学を結びつけたメモを置いておきます。
まず、火薬には、黒色火薬、無煙火薬の二種類がある。そして黒色火薬こそがかの有名な四大発明(古代中国で発明された紙、印刷術、火薬、羅針盤のこと)の一つである。黒色火薬は7世紀前半、無煙火薬は19世紀後半に開発された。
黒色火薬は木炭、硫黄(含まない場合もある)を可燃物、硝酸カリウム(KNO₃)を酸化物とした化合物である。木炭は木を乾留すれば、硫黄は火山から(つまり世界中比較的どこでも)取れるが、硝酸カリウムは中国内陸部、南ヨーロッパ、西アジア、インド等の乾燥地帯でしか取れない為、中国で発明されたのである。
なぜ乾燥地帯でしか取れないのか、それは硝酸カリウムが天然に析出するのは、地中の有機物が分解されNH₄⁺になり、それが硝化作用(高校化学ではやらないので気になったらググれ)によりNO₃⁻に変化、それが風解することによるからであるので、湿潤な気候では風解しない(水に溶けてしまう)為、天然にはできにくい。また、勿論硝酸カリウムは肥料になるため、植物がある場所では吸収されてしまい析出しにくい。
しかし歴史を知っている皆さんは、日本が戦国時代世界でも有数の銃保有国家であった事を知っているだろう。火薬はどう作ったのか、それは、最初は輸入していたものの、硝酸カリウムの製造法を確立したからである。白川郷が有名であるが、床下の土(雨に当たらない為)に蚕の糞や野草を埋め、それを混ぜ、足す事を数年、それを水に溶かす事で製造していた(培養法という)。他にも数種類方法があるがここでは割愛する。これにより黒色火薬はどこでも生産できるようになった。
そして時代は戦列歩兵へと飛ぶ。まああんな風にずらーっと並んで撃ちまくったら辺りは真っ白になってしまい、全然見えなくなってしまう。
ではまず、なぜ黒色火薬は煙と火薬カスが出るのか。次式が黒色火薬の燃焼である。2KNO₃+S+3C→K₂S+N₂+3CO₂、10KNO₃+3S+8C→2K₂CO₃+3K₂SO₄+6CO₂+5N₂これにより、気体である窒素、二酸化炭素と固体である硫化カリウム(白)、炭酸カリウム(白)、硫酸カリウム(白)が出るのでこれが白煙の正体である(黒色火薬というのは見た目の色で煙の色ではない)。また、硫化カリウムは空気と反応し、H₂SやSOₓが発生する。これが所謂硝煙の匂いである。
そして、黒色火薬は燃焼というよりは爆轟という反応をするらしい。爆轟というのは、簡単に言うと誘爆して通常の燃焼より早く近くの火薬が反応する事である。其の為実は黒色火薬はほぼ爆薬であるので、弾が発射させる際に同時にまだ反応が終わっていない火薬が飛ぶので、火薬カスで辺りが汚れるのである(だから火縄銃は射撃場では嫌われているらしい)。
また、これにより黒色火薬では弾の発射前にかなり反応が進むため、瞬間的に圧力がかなり大きくなってしまう。これによって銃身が破裂してしまうので、砲身を長くする事ができない(つまり命中精度が高く出来ない)。そこで新しく、反応時に煙が少なく、黒色火薬より燃焼スピードが遅い化合物の開発がされた。それが無煙火薬である。(実は無煙火薬の開発より前に褐色火薬という反応速度だけ落とした黒色火薬があるのだが、そんなに語ることもないのでここでは割愛する。)
無煙火薬はニトロセルロース(これだけだとシングルベース)、ニトログリセリン(ここまで含むとダブルベース)、ニトログアニジン(ここまで全て含むとトリプルベース)を原料としている。シングル、ダブル、トリプルベースの順に高価で、順に大型の砲で使われる(銃、迫撃砲、大口径砲)。原料のニトロセルロースは、木綿等のセルロース((C₆H₁₀O₅)ₙ)に硝酸と硫酸の混酸で処理して製造される。セルロースは地球上で最も多く存在する炭水化物であるので、どこでも生産が可能である。では硝酸と硫酸は?前述の様にちまちま生産(一回の工程で数年かかる)していたのか?
ここで出てくるのが工業的製法である。硝酸の工業的製法はオストワルト法で、反応式は次式のようになる。NH₃+2O₂→HNO₃+H₂Oしかし、原料のアンモニウムはどうするのか?そこで登場したのがハーバー・ボッシュ法である。ハーバー・ボッシュ法の反応式は次式のようになる。N₂+3H₂→2NH₃(Fe₃O₄触媒、高温高圧(発熱反応だが、反応速度が上がるため、又ルシャトリエの原理より))これにより硝酸が大量に生産可能になったのである。因みに、オストワルト法が1908年、ハーバー・ボッシュ法が1913年なので本当に丁度良い。また、硝酸は火薬以外にも、肥料にも使われる。肥料の主な原料は硝酸アンモニウムで、この二つの方法で原料である硝酸、アンモニウムどちらも大量に生産可能である。
そして硫酸の工業的製法。皆さんご存知なのは接触法だろうが、その登場以前にも他の製造法が8世紀には誕生していた。産業革命時、繊維の漂白剤の製造に必要となった事から18世紀にできたのが鉛室法で、それが改良を重ねられその後19世紀前半にできたのが接触法である。接触法の方が鉛室法よりも高濃度の硫酸を製造できた、又鉛室法では名前の通り生成した硫酸に鉛やヒ素等が含まれてしまい肥料には向かないので完全に鉛室法は廃れた。接触法の反応式は次式。S+O₂→SO₂(昔は黄銅鉱FeS₂の燃焼によりSO₂を得ていた。4FeS₂+11O₂→2Fe₂O₃+8SO₂)、2SO₂+O₂→2SO₃(V₂O₅触媒、低温高圧)、SO₃+H₂O→H₂SO₄(発煙硫酸(H₂SO₄に大量のSO₃を吸収させたもの)中のSO₃を希硫酸中のH₂Oと反応させ高濃度にしている(直接水に溶かさないのは発熱を抑制するため))これにより硫酸が大量に得られる。(補足:鉛室法の反応式2NO₂+H₂O→HNO₂+HNO₃、SO₂aq+2HNO₂→H₂SO₄+2NO、SO₂aq+HNO₃→NOHSO₄、NOHSO₄+HNO₂→H₂SO₄+NO₂+NO、NO+O₂→NO₂)
こうして全ての原料が大量生産できるようになったのである。次に、無煙火薬はなぜ煙が少ないのか(無煙とは言っても完全に零という訳では無い)。次式が燃焼である。(あくまで一例、一番分かり易い物を挙げる)C₆H₈(NO₂)₂O₅→CO₂+5CO+2H₂O+2H₂+N₂このように、酸素供給が物質内で完結しており、発生するのも全て気体であるので、理論上煙が出ない事が分かる。其の為煙が少なく、また黒色火薬と違い爆轟はしないのでカスも出にくい。また、瞬間圧力もそこまで高くないので、長砲身にすることも出来るようになったのだ。